教員News(No.15)
作業療法学専攻
解剖学の愉しみ ~形の意味~(作業療法学専攻 西澤 哲)
1.「形の機能」(若気の至り)
昔,私が学生であった頃の話である.
私は自然人類学科の生体機構学という研究室に所属し,人類の進化を「身体の機能」の面から探ることを中心に,ヒトの歩行や直立姿勢を研究していた(自然人類学では人間を動物の1種とみなし「ヒト」と表記する).当時の人類学では,化石の「形」から主に力学的な手法を用いて「アウストラロピテクスは二本足で歩けたはずだ」などの議論がなされていた.このような環境の中で,当時の私の頭の中は,『「身体の形」は「身体の機能」を形作る』,という概念が作られていった.
そんなある日,人類学教室の非常勤講師でいらっしゃったD先生の講義を受ける機会があった.D先生は東北大学解剖学教室の大御所だけではなく,「形態小変異」という画期的な方法を用いてヒトの系統や移動を研究されている人類学の大御所でもある.「形態小変異」による方法とは,たとえば「下顎孔」に「ブリッジ」が認められるか認められないかによってヒトの系統を探る方法である.(図1)
図1.下顎孔と下顎孔のブリッジ
D先生の講義の前日,研究室でささやかなパーティーが行われた.酒に酔った私は,こともあろうにD先生にこう発言した.「先生!すべての形には機能的な意味があります!」.そのときD先生は柔和な顔で「では,明日の私の講義をよく聞いてください」とだけ答えた.翌日の講義でD先生はニコニコしながら「下顎孔のブリッジ」を示して「西澤君,これでもすべての形に機能的意味はあると思いますか?」と質問された….
2.「形の機能」から「形の意味」へ
下顎孔は三叉神経の第3枝である「下顎神経」が下顎に侵入していく孔である.そこにブリッジがあろうとなかろうと,下顎神経の機能に影響があるわけではない.こうして「形に機能的な意味がある」という私の考えは,D先生によってあえなく打破されたのだった.
それからというもの私は「形の意味」を優先して考えるようになった.たとえば骨にある孔があり,そこを動脈が通っていたとする.D先生にお目にかかる以前の私ならば「血管を通すために孔ができたのだ」と考えていたところだが,このような考え方が「何らかの理由で孔ができ,その孔がたまたま血管を通すのに都合がよかったから動脈が通ったのだ」という考え方に修正されたわけである.すると必然的に次のような疑問が生ずることになる.「ではなぜ(どのようにして)この孔ができたのだろうか?」.この疑問の答が,まさしく私が本稿で言いたい「形の意味」となる.「形のレゾンデートル(存在証明)」と言い換えてもよいだろう.
ここで突然ですが,骨学の知識が少しでもある読者のみなさんに,椎骨の「形の意味」に関するクイズを出題します.(図2を参照)
なぜ頸椎にだけ「横突孔」があるの?
なぜ頸椎にだけ「前結節」「後結節」があるの?
なぜ腰椎にだけ「肋骨突起」「副突起」「乳頭突起」があるの?
なぜ腰椎にだけ「横突起」がないの?
いかがですか?すべて理にかなった答,すなわち「形の意味」を答えることができたでしょうか?
図2.脊椎の部位
3.「形の意味」とその本質
D先生にお目にかかる前,骨学実習で椎骨をスケッチしていた頃,なぜ腰椎だけ「横突起」がなくかわりに「肋骨突起」になるのか(つまり上の③と④の疑問)ということが不思議であった.D先生のおかげで「形の意味」を優先するようになった私は,再び「頸椎」「胸椎」「腰椎」「仙椎」を並べて観察してみた.観察していたある時,「魚の肋骨」が私の頭をよぎり,その瞬間すべてが氷解した.「なるほど!「横突孔」も「前結節?後結節」も「肋骨突起」も「副突起」も「乳頭突起」も,「肋骨」の形状を考えればすべて合理的に説明できるんだ!」と.この瞬間,私は小躍りしたいぐらい喜んでいた.その時の私の考え方は次のとおりである.
魚の肋骨はヒトの肋骨よりずっと多く,首から尾ひれに近いところまで存在する.しかもこれらの肋骨は椎骨についている.つまり椎骨に肋骨がつくのは脊椎動物の基本形だ.
したがって同じ脊椎動物であるヒトも椎骨に肋骨が付いているはずだ.しかしヒトの進化の過程で,頸椎や腰椎に本来ついていた肋骨が短くなり椎骨に癒合したのだろう.このように考えれば「横突孔」も「前結節?後結節」も「肋骨突起」も「副突起」も「乳頭突起」も,「小さくなった」肋骨の名残として存在しなければならない.
つまり『「脊椎動物の基本形(魚類)」から「特殊なかたちに進化したわれわれ(ヒト)」の関係を考えれば,「ヒト」であるわれわれの骨の「形」が説明できることになる.すなわち「形の意味」の本質は「脊椎動物の進化の結果」そのものということになる』というのが私の考え方であったわけだ.
読者のみなさんも「進化」というキーワードをもとに,図3の肋骨の付いた椎体と図1の頸椎,腰椎を見比べて,クイズの答を考えてみてください.正解は「プロメテウス解剖学アトラス第1巻」のどこかに出ていますヨ.
図3.肋骨の付いた椎骨(胸椎)
4.「解剖学のとはなにを学ぶ学問か ~解剖学の愉しみ~」
この考え方は私の「勝手な解釈」ととられる方もいらっしゃるかもしれない.しかし上の「肋骨突起などの存在理由」は解剖学の教科書にも載っている「解剖学的事実」である.
この記載を解剖学の教科書(それも結構有名な解剖学の教科書)で見つけた私は,『「進化」という軸で「形」』を見るという私の考え方に自信を持つようになった.そこで私は,それまでに勉強したヒトの筋骨格系の解剖学を「進化」を軸に見直すことを行った.すると,いままで半ば丸暗記に近い状態で「覚えていた」解剖学的知識が,合理的な「意味を説明できる」でことに気が付いた.以下に一部をご紹介しましょう.
伸筋である「上腕三頭筋長頭」の起始は,肩甲骨の「関節下結節」であること
屈筋である「上腕二頭筋長頭」の起始は.肩甲骨の「関節上結節」であること
手関節や指の関節の伸筋群の起始は,上腕骨の「外側上顆」であること
手関節や指の関節の屈筋群の起始は,上腕骨の「内側上顆」であること
上腕骨骨頭が後捻している(後側に捻じれている)こと
大腿骨骨頭が前捻している(前側に捻じれている)こと
股関節を取り巻いている靭帯が捻じれていること
私が学生の頃,解剖学に関して次のような意見を聞いたことがある.
解剖学は「人体の地図」をつくる学問であり,その地図はほぼ出来上がっている.したがって解剖学は学問としてこれ以上の進化はない.医学を学ぶ学生はその地図を覚えた上で医学の勉強をすればよい.
この意見はある意味正しいかもしれない.解剖学は医療の基本中の基本であり,少なくとも私は,解剖学的知識があいまいな医者には怖くてかかりたくない.作業療法士の卵をはじめとした医療を志す学生のみなさん.是非しっかりと解剖学を勉強して,解剖学的知識を自分のものにしてください.
しかし「学問としての進化がない」という考えに,私は反対である.確かに地図はできあがっているだろう.学生はその地図をひたすら覚えればよい.医療従事者は覚えた知識を医療に活用すればよい.なぜならば,上にも書いたように地図の知識は医療を行う上での必要条件になるのだから.だがその地図を理解するための地図の存在理由はまだまだ発展途上段階であると私は思う.私は「理解する」ことが学問の基本であると考えている.すなわち『「形の意味」の追求』が解剖学者に課されている課題である.たぶん「形の意味」をすべて答えることは不可能であるのだろう.しかしこの壮大な目的が,「解剖学」を「学問として成りたたしめている」のだと思う.
私は自然人類学を専門としているため,「形の意味」を「進化」に結び付けて考える傾向がある.しかし私は「進化」だけを強要しているわけではない.作業療法士は作業療法士なりの,理学療法士は理学療法士の「縦軸」を持てばよいと思っている.それぞれのスタンスの上で「形」を理解できたとき,「あぁ,こうなっているんだ」と思う瞬間が「学問としての解剖学」の始まりなのであろう.
Scientific Americanに長く連載された「数学ゲーム」の著者であることで有名なMartin Gardnerは「Aha!」という言葉でこの瞬間を示している.私はこの「Aha!」こそが,学問の醍醐味であると思っている.
何の因果からか,私は昨年から「筋骨格系の解剖学」を担当することになった.授業準備のため,何年かぶりに筋や骨の解剖学を復習したところ,「Aha!」がいくつもあった.これこそが,私の学問の愉しみ,いや,私にとっての「解剖学の愉しみ」なのである.この「解剖学の愉しみ」を少しでも学生に伝えたいと思い,授業準備を行っている毎日である.
5.「さいごに…(Y先生からの問題)」
ここまでの文章で,「形の意味」に対して少々「進化」という私のスタンスを出しすぎたところがあった.そこで別のスタンスからの話を紹介して,この稿を終わらせたいと思う.
私の学生時代の同級生はたったの5人であった(人類学教室はあまり人気がなかったのかな?).この5人が「組織学実習」の講義を受けるために,毎週土曜日の午前中,医学部のY先生の研究室を訪れることになった.Y先生は面白い先生で,組織学に関する実習(顕微鏡をのぞき組織断片をスケッチする)だけではなく,解剖学についての講義(と,いうより「お話し」だったかな?)もおこなって下さった.しかもY先生はこの「お話し」のとき,ケーキとお茶まで用意しくれました(Y先生,ありがとうございます!).
あるとき,お茶を飲みながら筋肉の解剖学の話をしているときに,Y先生は突然次のような質問をされた.
みんなは,筋肉に力が入ると筋肉は縮むことが普通であるのはわかっているよね.じゃぁ,なぜ力を入れると,舌は伸びるの?
さて,なぜでしょう?ヒトの進化との関係はわかりませんが,ヒトの舌の解剖学をちょっと勉強すると,きっと「Aha!」になりますよ!
(蛇足ですが,亀の首が伸びたり縮んだりするのはなぜでしょう?亀の骨格標本を観察するとよくわかりますよ.これも「Aha!」になるかな?)
これらも,私の考える「解剖学の愉しみ」です.
20140511 西澤,記
1.「形の機能」(若気の至り)
昔,私が学生であった頃の話である.
私は自然人類学科の生体機構学という研究室に所属し,人類の進化を「身体の機能」の面から探ることを中心に,ヒトの歩行や直立姿勢を研究していた(自然人類学では人間を動物の1種とみなし「ヒト」と表記する).当時の人類学では,化石の「形」から主に力学的な手法を用いて「アウストラロピテクスは二本足で歩けたはずだ」などの議論がなされていた.このような環境の中で,当時の私の頭の中は,『「身体の形」は「身体の機能」を形作る』,という概念が作られていった.
そんなある日,人類学教室の非常勤講師でいらっしゃったD先生の講義を受ける機会があった.D先生は東北大学解剖学教室の大御所だけではなく,「形態小変異」という画期的な方法を用いてヒトの系統や移動を研究されている人類学の大御所でもある.「形態小変異」による方法とは,たとえば「下顎孔」に「ブリッジ」が認められるか認められないかによってヒトの系統を探る方法である.(図1)
図1.下顎孔と下顎孔のブリッジ
D先生の講義の前日,研究室でささやかなパーティーが行われた.酒に酔った私は,こともあろうにD先生にこう発言した.「先生!すべての形には機能的な意味があります!」.そのときD先生は柔和な顔で「では,明日の私の講義をよく聞いてください」とだけ答えた.翌日の講義でD先生はニコニコしながら「下顎孔のブリッジ」を示して「西澤君,これでもすべての形に機能的意味はあると思いますか?」と質問された….
2.「形の機能」から「形の意味」へ
下顎孔は三叉神経の第3枝である「下顎神経」が下顎に侵入していく孔である.そこにブリッジがあろうとなかろうと,下顎神経の機能に影響があるわけではない.こうして「形に機能的な意味がある」という私の考えは,D先生によってあえなく打破されたのだった.
それからというもの私は「形の意味」を優先して考えるようになった.たとえば骨にある孔があり,そこを動脈が通っていたとする.D先生にお目にかかる以前の私ならば「血管を通すために孔ができたのだ」と考えていたところだが,このような考え方が「何らかの理由で孔ができ,その孔がたまたま血管を通すのに都合がよかったから動脈が通ったのだ」という考え方に修正されたわけである.すると必然的に次のような疑問が生ずることになる.「ではなぜ(どのようにして)この孔ができたのだろうか?」.この疑問の答が,まさしく私が本稿で言いたい「形の意味」となる.「形のレゾンデートル(存在証明)」と言い換えてもよいだろう.
ここで突然ですが,骨学の知識が少しでもある読者のみなさんに,椎骨の「形の意味」に関するクイズを出題します.(図2を参照)
なぜ頸椎にだけ「横突孔」があるの?
なぜ頸椎にだけ「前結節」「後結節」があるの?
なぜ腰椎にだけ「肋骨突起」「副突起」「乳頭突起」があるの?
なぜ腰椎にだけ「横突起」がないの?
いかがですか?すべて理にかなった答,すなわち「形の意味」を答えることができたでしょうか?
図2.脊椎の部位
3.「形の意味」とその本質
D先生にお目にかかる前,骨学実習で椎骨をスケッチしていた頃,なぜ腰椎だけ「横突起」がなくかわりに「肋骨突起」になるのか(つまり上の③と④の疑問)ということが不思議であった.D先生のおかげで「形の意味」を優先するようになった私は,再び「頸椎」「胸椎」「腰椎」「仙椎」を並べて観察してみた.観察していたある時,「魚の肋骨」が私の頭をよぎり,その瞬間すべてが氷解した.「なるほど!「横突孔」も「前結節?後結節」も「肋骨突起」も「副突起」も「乳頭突起」も,「肋骨」の形状を考えればすべて合理的に説明できるんだ!」と.この瞬間,私は小躍りしたいぐらい喜んでいた.その時の私の考え方は次のとおりである.
魚の肋骨はヒトの肋骨よりずっと多く,首から尾ひれに近いところまで存在する.しかもこれらの肋骨は椎骨についている.つまり椎骨に肋骨がつくのは脊椎動物の基本形だ.
したがって同じ脊椎動物であるヒトも椎骨に肋骨が付いているはずだ.しかしヒトの進化の過程で,頸椎や腰椎に本来ついていた肋骨が短くなり椎骨に癒合したのだろう.このように考えれば「横突孔」も「前結節?後結節」も「肋骨突起」も「副突起」も「乳頭突起」も,「小さくなった」肋骨の名残として存在しなければならない.
つまり『「脊椎動物の基本形(魚類)」から「特殊なかたちに進化したわれわれ(ヒト)」の関係を考えれば,「ヒト」であるわれわれの骨の「形」が説明できることになる.すなわち「形の意味」の本質は「脊椎動物の進化の結果」そのものということになる』というのが私の考え方であったわけだ.
読者のみなさんも「進化」というキーワードをもとに,図3の肋骨の付いた椎体と図1の頸椎,腰椎を見比べて,クイズの答を考えてみてください.正解は「プロメテウス解剖学アトラス第1巻」のどこかに出ていますヨ.
図3.肋骨の付いた椎骨(胸椎)
4.「解剖学のとはなにを学ぶ学問か ~解剖学の愉しみ~」
この考え方は私の「勝手な解釈」ととられる方もいらっしゃるかもしれない.しかし上の「肋骨突起などの存在理由」は解剖学の教科書にも載っている「解剖学的事実」である.
この記載を解剖学の教科書(それも結構有名な解剖学の教科書)で見つけた私は,『「進化」という軸で「形」』を見るという私の考え方に自信を持つようになった.そこで私は,それまでに勉強したヒトの筋骨格系の解剖学を「進化」を軸に見直すことを行った.すると,いままで半ば丸暗記に近い状態で「覚えていた」解剖学的知識が,合理的な「意味を説明できる」でことに気が付いた.以下に一部をご紹介しましょう.
伸筋である「上腕三頭筋長頭」の起始は,肩甲骨の「関節下結節」であること
屈筋である「上腕二頭筋長頭」の起始は.肩甲骨の「関節上結節」であること
手関節や指の関節の伸筋群の起始は,上腕骨の「外側上顆」であること
手関節や指の関節の屈筋群の起始は,上腕骨の「内側上顆」であること
上腕骨骨頭が後捻している(後側に捻じれている)こと
大腿骨骨頭が前捻している(前側に捻じれている)こと
股関節を取り巻いている靭帯が捻じれていること
私が学生の頃,解剖学に関して次のような意見を聞いたことがある.
解剖学は「人体の地図」をつくる学問であり,その地図はほぼ出来上がっている.したがって解剖学は学問としてこれ以上の進化はない.医学を学ぶ学生はその地図を覚えた上で医学の勉強をすればよい.
この意見はある意味正しいかもしれない.解剖学は医療の基本中の基本であり,少なくとも私は,解剖学的知識があいまいな医者には怖くてかかりたくない.作業療法士の卵をはじめとした医療を志す学生のみなさん.是非しっかりと解剖学を勉強して,解剖学的知識を自分のものにしてください.
しかし「学問としての進化がない」という考えに,私は反対である.確かに地図はできあがっているだろう.学生はその地図をひたすら覚えればよい.医療従事者は覚えた知識を医療に活用すればよい.なぜならば,上にも書いたように地図の知識は医療を行う上での必要条件になるのだから.だがその地図を理解するための地図の存在理由はまだまだ発展途上段階であると私は思う.私は「理解する」ことが学問の基本であると考えている.すなわち『「形の意味」の追求』が解剖学者に課されている課題である.たぶん「形の意味」をすべて答えることは不可能であるのだろう.しかしこの壮大な目的が,「解剖学」を「学問として成りたたしめている」のだと思う.
私は自然人類学を専門としているため,「形の意味」を「進化」に結び付けて考える傾向がある.しかし私は「進化」だけを強要しているわけではない.作業療法士は作業療法士なりの,理学療法士は理学療法士の「縦軸」を持てばよいと思っている.それぞれのスタンスの上で「形」を理解できたとき,「あぁ,こうなっているんだ」と思う瞬間が「学問としての解剖学」の始まりなのであろう.
Scientific Americanに長く連載された「数学ゲーム」の著者であることで有名なMartin Gardnerは「Aha!」という言葉でこの瞬間を示している.私はこの「Aha!」こそが,学問の醍醐味であると思っている.
何の因果からか,私は昨年から「筋骨格系の解剖学」を担当することになった.授業準備のため,何年かぶりに筋や骨の解剖学を復習したところ,「Aha!」がいくつもあった.これこそが,私の学問の愉しみ,いや,私にとっての「解剖学の愉しみ」なのである.この「解剖学の愉しみ」を少しでも学生に伝えたいと思い,授業準備を行っている毎日である.
5.「さいごに…(Y先生からの問題)」
ここまでの文章で,「形の意味」に対して少々「進化」という私のスタンスを出しすぎたところがあった.そこで別のスタンスからの話を紹介して,この稿を終わらせたいと思う.
私の学生時代の同級生はたったの5人であった(人類学教室はあまり人気がなかったのかな?).この5人が「組織学実習」の講義を受けるために,毎週土曜日の午前中,医学部のY先生の研究室を訪れることになった.Y先生は面白い先生で,組織学に関する実習(顕微鏡をのぞき組織断片をスケッチする)だけではなく,解剖学についての講義(と,いうより「お話し」だったかな?)もおこなって下さった.しかもY先生はこの「お話し」のとき,ケーキとお茶まで用意しくれました(Y先生,ありがとうございます!).
あるとき,お茶を飲みながら筋肉の解剖学の話をしているときに,Y先生は突然次のような質問をされた.
みんなは,筋肉に力が入ると筋肉は縮むことが普通であるのはわかっているよね.じゃぁ,なぜ力を入れると,舌は伸びるの?
さて,なぜでしょう?ヒトの進化との関係はわかりませんが,ヒトの舌の解剖学をちょっと勉強すると,きっと「Aha!」になりますよ!
(蛇足ですが,亀の首が伸びたり縮んだりするのはなぜでしょう?亀の骨格標本を観察するとよくわかりますよ.これも「Aha!」になるかな?)
これらも,私の考える「解剖学の愉しみ」です.
20140511 西澤,記