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総合政策学部 総合政策学科

初夏の風物詩

総合政策学部准教授 増井 三千代


毎年、爽やかな初夏を迎え木々の緑が濃くなる頃、ツバメが飛来して、キャンパスのあちこちに巣作りを始める。私の駐車場から研究室がある建物までは百メートルほどの距離だが、日々出来上がっていく巣を眺めながらの通勤は、ささやかな楽しみである。

巣が完成してしばらくすると、中から「ジ?―、ジィー、ジィー」という小さな鳴き声が聞こえてくる。こうなると、親鳥は巣と外を一日に何度も往復し、ひな鳥のために餌をせっせと運ぶ。親鳥が巣に戻ると、食欲旺盛なひな鳥たちは黄色い口を一斉に大きく開け、首を伸ばして餌をおねだりする。まるで大合唱をしているかのような光景は実に可愛らしく、そばを通るたびについスマホで撮影してしまう。だが、そんな親ツバメたちの献身的な子育ても、7月に入ると終わりを迎える。

ある日の帰り道、すくすく成長した六羽のひな鳥たちが、折り重なるように巣の中でじっとしていた。そのあまりの窮屈そうな姿に巣が崩れ落ちてしまうのではと心配になったのと同時に、「いよいよ、明日は巣立ちの時だ」と直感した。

案の定、翌朝出勤したときには巣ががらんとしている様子が遠目にも分かった。だが、そばに行って巣を見上げると、一羽のひながまだ残っていた。その近くでは、複数のツバメが鳴きながら、勢いよく飛び交っていた。先に巣立った兄弟たちや親ツバメが最後のひな鳥の巣立ちを見守っていたのだろうか。残念ながら、巣立ちの瞬間には立ち会えなかったが、午後に巣を見に行ったときには、もう辺りは静かで、空っぽになった巣だけが残っていた。

その瞬間、いつも嬉しさと寂しさが入り混じった複雑な気持ちが沸き起こる。でも、これが終わると、間もなく本格的な夏が到来することを思い起こさせてくれる。そして、来年またツバメたちが巣作りに戻って来てくれることを心から願う。

こんな夏の風物詩だが、実はもう一つ恒例となっていることがある。この時期になると、庶務課から「生ものが届いているので早めの受領を」との連絡が入る。送り主は確認しなくても分かる。5年前に卒業した山形出身のゼミ生である。親戚が作っているからといって、在学時からさくらんぼをお裾分け分けしてくれたが、卒業後も送り届けてくれる。申し訳ないと思いつつも、毎年有難く頂いているが、今年の味は格別であった。1月に入籍を済ませ、家庭と両立させるために転職し、ようやく新しい生活にも慣れてきたとのことだった。

5年前、柔らかい翼を広げて学び舎を巣立ったあなたはどこか危なっかしく、支えてあげなければと思っていた。時折、訪問しては見せてくれた笑顔に安堵したが、どうやらもう心配する必要はないようである。
どうぞ末永くお幸せに!

2017.6.28撮影