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総合政策学部 総合政策学科

Kさんの講演

総合政策学部教授 永澤雄治


学部生の頃、学生主催の講演会に関わったことがあった。政治思想史の故藤田省三さん、『アサヒジャーナル』の編集長(当時)の故筑紫哲也さんなどと講演会の前後に話をする機会を得たのは貴重なことだった。

中でも一番印象に残っているのがKさんのことだ。今では思想家として欧米でも認知され、言語と貨幣に関する代表的な著書を始めとして英語や独語の翻訳も出版されているが、当時は気鋭の批評家という位置づけだったと思う。

講演会をお願いしたのは、雑誌『現代思想』に連載されていた「形式化の諸問題」が終わった頃だったろうか。当時Kさんが教壇に立っていたH大学の事務局に電話し、講演会にお呼びしたいので電話番号と住所を教えて欲しいとお願いした。今なら考えられないが、30数年前で個人情報など大して気にする時代ではなかったため、あっさりと教えてもらえた。早速その晩に公衆電話からご自宅にかけると、英文学者で翻訳家でもあった奥様が出られ、Kさんの書斎につないで頂いた。私は緊張しながらも、講演会をお願いしたいことと謝金は交通費+αしか差し上げられないことをお伝えした。その場では保留されたが、再度連絡した際には快くお引き受け頂いた。

当日は駅でお迎えし大学にご案内した。講演会の教室まで歩く間に、「自然生成」概念について熱心に説明して頂いたが、全く理解できなかったことだけはよく覚えている。講演会が始まると、Kさんはタバコを取り出されお吸いになりたい様子だったので、灰皿を探して構内を走り回り、ある先生の私物を借りて講演会の教室に戻ったりもした。講演会の後、構内の生協食堂で簡単な会食の時間を設けたが、その際、Kさんは小学生のお子さんが学校で一言も話さないこと、実は自分も小学校の低学年時代に同じ症状だったが、新学年になり隣の子から話しかけられ思わず返事をしてしまい、その後は普通に話をするようになったことなど、現代思想とは関係ない私的なこともビール片手に話されていた。大学時代の楽しい思い出の一つである。