初学者向けの教科書
総合政策学部講師 淡路智典
教科書の話が続きますが、私も『教職課程のための憲法入門』という法律を專門としない初学者向け(特に教師になるために教職課程を学んでいる人向け)の憲法の教科書の執筆に参加しました。誰に向けた教科書なのかを、もう少し細かく言うならば、法学部に入学して法律を專門に学ぼうとしている人向けではなく、教職課程の必修科目であるという理由から憲法の授業を履修した人や単に一般教養科目の一つとして憲法を履修した人向けの教科書になります。
憲法という法律科目の知識や理念をどう使うのか、どう活かすのかはその人の目標とする将来によって様々に異なってきます。弁護士を目指して勉強している人は、主要な学説、判例を網羅的?体系的に学び、将来、実務でその知識を活かすことになるでしょう。このような学び方は王道ではありますが、憲法を学ぶ人全てが同じように学説や判例の細部まで網羅する必要があるでしょうか。法学部に比べると、授業時間もモチベーションも限られている学生達には、何を伝えるべきでしょうか。
法律の専門家を目指す人以外は、憲法をどう学び、どう活かすべきだろうか。それに対する一つの回答の試みがこの教科書の取り組みです。この教科書はできるだけ法律の専門用語を使わず、どうしても必要な用語に関しては必ず説明を入れました。各章の冒頭で挙げる具体的事例も、学生達とは縁遠い実際の判例などを使うのではなく、学生達に身近な学校現場での事例を用い、人権や憲法が一人ひとりの生活に結びついていることを示すことを心掛けました。この教科書で重視したことは、憲法の基礎知識は正確に伝えつつ、それに加え、我々一人ひとりが主権者であり、かけがいのない人権を持った存在であることを理解してもらうことでした。教員になる人には教育現場で、その他の人には一般社会で、憲法や人権という理念を活かせるようになってもらえれば、執筆者の目的は果たせたことになると思います。
大学では数多くの科目が学べます。ある人にとって、専門的に学ぶべき科目であるものが、他の人にとっては一般教養科目であったりもします。同じ科目名であっても、学生のニーズの数だけ、多様な学び方があるはずです。大学教員もそれに応じて、工夫を行っています。昔の大学教育のイメージで、教科書が四角四面で固くて取っつき難いものしかないと思っている方は、ぜひ大きな本屋に行って、初学者向けの教科書のコーナーを見てください。様々な大学の教員が、伝えるための工夫をした多くの本を執筆していることに気付くと思われます。