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『総合政策論集』第17巻発行しました

経営法学科
東北文化学園大学総合政策学部では、教員の研究成果を『総合政策論集』として毎年発行しています。このたび、第17巻を発行しました。




読み方の手引き

 表紙を見ればわかるように,今号の掲載論文?エッセーはテーマに基づき,Ⅰ.国際,Ⅱ.交流,Ⅲ.人権,Ⅳ.文化,という4つのカテゴリーに分けられています.専門分化した大学教育の弊害を解決するために登場した学部が,なぜカテゴリーの区分にこだわるのでしょうか?

 それは,専門領域を異にする個々の論文を総合的に理解することがとても難しいことだからです.まず,テーマ別のカテゴリーに分け,カテゴリーの中の論文相互の関連性を理解し,次にカテゴリー間のつながりを考えることによって,複雑に入り組んだ現代社会の問題を解決しうる新たな総合政策学的「知恵」が生まれるのではないか,と私たちは考えています.

 しかし,そのような考え方に妥当性があるとしても,カテゴリーの区分方法にも問題があるのではないでしょうか?

 例えば,数学モデルを用いて「マイクロファイナンスにおける預金の役割」について論じた石田論文が「国際」というカテゴリーに区分されているのはなぜでしょうか?
 石田先生が論文の冒頭で説明しているように,「マイクロファイナンス」は,2006年にノーベル平和賞を受賞されたムハンマド?ユヌス氏(元チッタゴン大学経済学部長)が米国留学からの帰国後,母国バングラデッシュの飢饉に遭遇した経験をふまえて1976年から取り組み始めた少額無担保融資事業「グラミン銀行」を典型とし,政府開発援助(ODA)に対置される 草の根型(grass-roots type) のソーシャルビジネスとして世界的に知られる内発型の開発手法です.

 そのような文脈において,国際政治経済学(IPE)の枠組みから国際情勢の背後に潜む経済構造を読み解く新たな視点を提起した永澤先生の論文「紛争と協調の経済的相互依存-分析概念の検証-」や,国際基督教大学(ICU)卒業後にインドでの調査研究に従事した馬内先生のライフワークの一環ともいえる「モディ政権下におけるヒンドゥー至上主義者たちによる批判的学者への攻撃-雑誌Frontline の記事から-」と同様に,石田先生の論文は総合政策学的視点からの国際問題への接近(approach) を示唆するものである,と私たちは考えました.

 ちなみに,ユヌス氏が米国留学中にヴァンダービルト大学に提出した経済学博士論文“Optimal Allocation of Multi-Purpose Reservoir Water: A Dynamic Programming Model” の指導教授は『エントロピー法則と経済過程』(1993年,みすず書房)の著者ニコラス?ジョージェスク=レーゲンです.ルーマニア人のレーゲン教授は24歳でソルボンヌ大学から博士号取得後,ロンドン大学,ハーバード大学への留学を経て第二次世界大戦直前の1936年にルーマニアに帰国しました.その後,1948年にスターリンの影響下にあったルーマニアから米国に逃れ,ヴァンダービルト大学経済学部に職を得て大学院生のユヌス氏を指導したというわけです.そこで,両者を結び付けたのは異なる文化の壁を超えて成立する「数学」という言語です。ソローが森羅万象を隠喩(metaphor)なしに語ることのできる言語として「音」を説明したように,数学は日常の生活から宇宙の摂理まで分け隔てなく説明できる言語なのです.

 また,日本にはマイクロファイナンスの原型ともいえる「無尽講」や「頼母子講」に関して,鎌倉時代以来ともいわれる長い歴史があります.現に,この国見地区に「雷神講」が現存しているように,今でも「講」組織が活用されている地域は少なくありません.近年,都市銀行や信用金庫などが地元住民やNPO と連携して進めるエネルギー自給による地域活性化の取り組みなども,広義のマイクロファイナンスの一つといえるかもしれません。金融や地域活性化に関心のある方も,経済学や数学に興味のある方も,「国際」という視点から石田先生の論文を味わってみてください.

 「国際」,「交流」,「人権」,「文化」というカテゴリーは,私たちの目前に存在し,そのままの状態で放置すれば未来に暗雲を投げかけるかもしれない問題を解くために必要なさまざまな「ツール」を収めた道具箱です.「なぜ?」と疑問を感じながら読み進めてください.そうすれば,カテゴリー内部の論文相互の関連性や各カテゴリー間のつながりが読みとれ,そのような読み方を通して総合政策学部で学ぶ意味を見つけることができるでしょう.

総合政策学部紀要編集委員 秡川 信弘?王 元