工学研究

工学研究からのアプローチ

未来技術に必須な コンピュータネットワーク

長田 俊明 教授
老虎机游戏 知能情報システム学科
長田 俊明 教授
ふだん私たちが当たり前のように使っているスマートフォンやノートPC。これらの通信端末は、コンピュータネットワークがあるからこそ成り立っているものです。複数のコンピュータ、移動端末などをさまざまな規模のネットワークにつなげる技術。ますます進展していく情報化社会の中で、コンピュータネットワークはどのような役割をもち、どのような価値を生み出しているのか。知能情報システム学科コンピュータネットワーク担当の長田俊明先生にうかがいました。

情報化社会の中で重要性が高まる コンピュータネットワーク

コンピュータネットワークを研究しようとする場合、局所的なエリアから全世界の隅々まで広がる、膨大でとらえどころのなさそうなものを相手にして、どのような視点をもって臨めばいいのでしょうか。
「少し抽象的な概念図ですが、《図1》を見てください。ここには一部しか描かれていませんが、皆さんに関係するようなところからいきますと、SNSでのコミュニケーションやオンラインゲームなど身近なことから、ネットショッピングやオンライン決済。大学の場面でいうと、PCやWEBサービスなどを利用した教育支援システム、研究者のICTを活用した研究支援システム。それからドローンカメラを活用した災害対策や遠隔操作技術を使った医療支援システム。すでにヨーロッパの一部で導入されているMaaSと呼ばれるICT(情報通信技術)を活用した公共交通中心の交通制御管理サービスなども注目されています」。
いずれも、現在ふつうに誰もが使っているもの、活用してその便利さや優れた機能を実感しているもの、あるいはそれが実現すれば一歩先の新しい未来に近づく、そんなシステムばかりです。
「これらの技術?システムは、その技術?システムだけで成り立っているものではなく、要はコンピュータネットワークの上に成り立っています。いま紹介したさまざまなシステムが現代生活に欠かせないものになればなるほど、コンピュータネットワークのインフラとしての重要性が高まってきています。そこで、このコンピュータネットワークを十分に機能させるために、安全かつ効率の良いデータ伝達?管理を、いかにして実現させていくか。これが研究の基本的な指針になります」。

インターネットをはじめとしたコンピュータネットワークは情報化社会の重要なインフラ
図1:コンピュータネットワークは情報化社会の重要なインフラ

混在して使われているネットワークの どこを通れば効率がいいのか

コンピュータネットワークとは、有線や無線の通信経路を通して、複数のコンピュータをつなげる技術や状態のことをいいます。コンピュータネットワークとひと口に言っていますが、家庭内やオフィスなど限定した場所内を接続するための小規模なネットワークであるLANやWi-Fi。世界中に存在するそれらのネットワークを相互に接続している巨大な情報網がインターネットです。
「コンピュータネットワークにおいて安全かつ効率の良いデータ伝達?制御?管理の技術を探る、ということは、電波を効率よく飛ばしたりアンテナを立てて通信効率を高めたりというハードウェアとしての対策ではなく、ネットワークのいろいろな環境があるなかで、データを見られたり盗まれたりすることなく、どうやって安全に届けることができるか。安全だからといってすごく時間がかかったりすれば使いづらいので、どのように効率的に相手が望む品質で提供することができるのか。安全性と効率性の2つの面からのソフトウェア的なアプローチということです」。
長田先生は、さらにスマートフォンやPCを使っているその資源であるネットワークは、LANやインターネット、有線のもの無線のもの、場所によっても異なる、さまざまなネットワークが混在して使われていると指摘します。「たとえば仙台からどこか海外の人とインターネットを使ってビデオ会議をやるとします。ではその時に直接相手のPCにデータが飛んでいるか、1対1で通信しているかといったら、そんなことはなく、相手との間で無線?有線も含めてさまざまなネットワークを介してデータが届いているんですね」。
ではどこを通れば効率よくデータが届くのか、あるいはネットワークのどこか混雑しているところがある場合には 、その中継地点を介さないでほかの通信経路を通って送れば効率がいいかもしれないということがあります。「そうした周辺端末の通信状況などネットワークの状態を把握して、効率よくデータを届けたい。遠くに離れたいろいろなネットワークが介してるときに、どうやってデータをうまく転送するか、データの転送経路などを選択する、制御するという研究です」。《図2》

図2:端末の通信品質の要求を反映させたデータ転送経路の選択についての研究

図2:端末の通信品質の要求を反映させたデータ転送経路の選択についての研究

高校生に向けて研究領域の魅力を伝えるメッセージをお願いします。

災害時の避難所で利用が期待される
移動端末同士の臨時ネットワーク
「研究の中で特に力を入れているのが、スマートフォンやノートPCなどの移動端末同士で自由自在にネットワークを構成できる、通信基地局を必要としないネットワークを構成するという試みです。ふつうに基地局があるんだったらそれでいいのではと考える人もいるかもしれませんが、基地が使えない状況というものがあります」と長田先生。携帯電話網が被災して重大な機能不全に陥った東日本大震災、あるいは老虎机游戏6年能登半島地震でも、停電や現地の無線基地局とモバイルネットワークを接続する回線の障害などで被災地の広い範囲で携帯電話が使えない状況となりました。
「既存のネットワークが使えないような災害時に、スマートフォンやノートPCなどの端末同士で臨時に無線ネットワークを構成することができれば、避難所や辺境地での利用が期待されますので、そこを目指す研究を続けています。こうしたネットワークでは、安全?確実?効率的にデータの送受信?管理ができるか、データ分散管理技術が必要となります」。《図3》



図3:安全?確実?効率的にデータを送受信?管理できる分散管理技術の研究

コンピュータネットワークの先に見えてくる広い社会とのつながり

避難所での利用を想定したネットワーク構成技術の事例でみられるように、コンピュータネットワークは、大きな社会性をもつインフラということができます。
「コンピュータネットワークにつながることによって、さまざまな社会活動が行われています。身近なことではコロナ禍のときに、オンライン授業が導入されましたが、学内LAN?コンピュータネットワークの整備、安全なネットワークということが前提で、さらにそこからアフターコロナにおける次世代教育?研究のあり方への模索も始まろうとしています。たとえば先端医療技術である遠隔手術では、当然のように安定した高速通信ネットワークが必須のものになります。これからますます、さまざまな分野の研究開発が、コンピュータネットワークとの深い関わりをもって進められていくことになると思います」。
コンピュータ研究というと理数系で非常にハードルが高いものという印象をもちやすいと思いますが、長田先生はそうではないと説明します。「知能情報システム学科とは、高校でどんな学科で学んだ人でも情報技術が身につくように設定しています。必ずしも理系脳だけで立ち向かうものでもなく、実際に普通科文系の人も含めて多彩な分野から入学しています。コンピュータ関連は基盤技術なので、たとえば自分がいちばん関心のあることがほかにあるという場合でも、その分野をより深く知ったり、違う目線から見ようとするときに、コンピュータ技術は必ず新しい力になってくれます。そんな面白みのある分野です。コンビュータネットワークを学んでいくと、それを活用して行われているさまざまな社会活動、より広い社会とのつながりを実感できるはずです」。

「夢中になれるものを見つけてトライしてみることが大切」と長田先生。
「夢中になれるものを見つけてトライしてみることが大切」と長田先生。